財務省が「石破政権と維新の急接近」を演出した全内幕…予算案通過のウラで「主計局のエース」が説得に奔走していた
3/31(月) 　週刊現代

国民民主党の玉木雄一郎代表(1993年旧大蔵省入省)は最近、財務省にしきりに噛みついている。少数与党の石破茂政権のもと、今国会の最大の焦点だった来年度予算案を巡る攻防で、賛成する条件として「年収の壁(課税最低限)」の大幅な引き上げやガソリン減税を要求、与党側と幹事長合意まで結びながら最後にハシゴを外され、思惑通りに行かなかったからだ。

予算案は結局、政府・与党に高等教育の無償化要求を丸呑みさせた野党第二党の日本維新の会の賛成で衆院を通過したが、玉木氏はその裏に古巣の政界工作の臭いを嗅ぎ取っている。

実際、「年収の壁」を巡り、国と地方合わせて7兆~8兆円もの減収につながりかねない「高い玉」を投げ続けた玉木国民民主を斬り捨て、財源がその10分の1以下で済む高校教育の無償化を要求した維新に「部分連合」の相手先を乗り換えるよう石破政権・与党を誘導したのは、財務省に他ならない。

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玉木氏と同期入省の主計局のエース、吉野維一郎次長を中心に、維新の複雑な党内事情も踏まえながら説得工作に奔走した。

維新といえば、石破首相と前原誠司・維新共同代表との長年の親友関係がクローズアップされがちだが、そんなセンチメンタリズムだけで政局を動かせるわけではない。しかも維新はルーツである大阪系議員と、国政進出後に加わった中央系の議員の間で意見が食い違うこともしばしばという「まとまりを欠く政党」(主計局筋)だ。

前原氏は、吉村洋文・大阪府知事の指名で共同代表に就いたが、もともと旧民主党や国民民主党、教育無償化を実現する会と所属政党を変えてきた「政界渡り鳥」。維新に昨秋入党したばかりの「外様」でもあり、党内を来年度予算案への賛成でまとめ切る求心力を期待するのははなから無理があった。

そこで吉野次長らが目を付けたのが、党内多数派の大阪系議員に影響力を持つ前代表の馬場伸幸氏やそれに連なる遠藤敬・前国対委員長>>193だった。吉野次長は自ら馬場氏や遠藤氏にもとに日参し、教育無償化など維新の要求を丸呑みして予算案を修正する意向を伝え、賛成するよう頭を下げた。

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昨秋の衆院選での党勢不振で馬場前代表とともに執行部を追われた遠藤氏だが、永田町では「義理と人情のえんちゃん」と親しまれ、党内でも隠れた存在感を発揮していた。そこに抜け目なく目を付けたのは主計局エースの慧眼。遠藤氏は文科省幹部らも東京・赤坂の衆院宿舎に呼び出し、維新が飲める高校授業料無償化予算の段取りなどを詰めたという。最終盤では党内で「予算案には賛成するが、(手取りを増やす対策が不十分な)財政改正関連法案には賛成できない」>>40などと一部で反発する声も出たが、これを抑えたのも遠藤氏だったようだ。

さらに吉村知事に対しては、関西万博(4月13日開幕)の後始末への財政支援までちらつかせて懐柔を図った。計画では1000億円強かかる運営費の8割超を入場券収入で賄う方針だが、前売り券の売れ行きは経団連加盟企業に“押し売り”しても、目標の1400万枚に遠く及ばない有様だ。吉村知事周辺筋からも「巨額の赤字が出るのは必至」と悲観的な声が出ており、その穴埋めには政府、すなわち財務省の協力が欠かせない状況になっている。そんな吉村維新の足元を見透かして、予算案賛成への協力を迫ったわけだ。

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一方、吉野次長と同期の中島朗洋首相秘書官や、岸田文雄前政権で首相秘書官を務めた一松旬大臣官房審議官(1995年旧大蔵省)ら政治に手練れの主計畑官僚は、万が一にも石破政権が野党対策で赤字国債の追加発行につながるような大幅な譲歩はしないよう、首相をはじめ政府・与党の主要幹部にクギを刺して回った。

説得のための伝家の宝刀として持ち出したのが、憲法が定めた内閣の予算提案権だ。「国会の予算修正は内閣の予算提案権を損なわない範囲において可能」とした過去の国会答弁を引き合いに「予算案の組み換えにはいくらでも応じますが、予算案を撤回して国会に出し直す『政府修正』につながる赤字国債の追加発行は1円たりとも罷りなりません。憲法違反につながります」と刷り込んだ。

関係筋によると、石破最側近を自任する赤澤亮正経済再生相は一松官房審議官からすっかり“洗脳”され、首相に「国民民主の要求を丸呑みしては絶対ダメ」と進言したほどだという。

かくして財務省は国民民主との「部分連合」に早々と見切りを付け、「最小コストで手なずけられる」(主計局筋)維新の取り込みに全集中し、目論見通りの展開に持ち込んだ。

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先の兵庫県知事選を巡り地域組織「兵庫維新の会」の県議による情報漏洩スキャンダルまで噴出した維新が、参院選での投票先に関する世論調査でれいわ新撰組を下回るほど党勢が退潮していたことも好都合だった。吉村代表らは参院選でアピールできる成果を勝ち取りたいと焦りを募らせていたといい、財務省にとっては「格好のカモ」だった。

ソデにされた国民民主は「石破政権は課税最低額を160万円に引き上げるというが、所得制限など様々な制約が付き、満額引き上げの対象になるのは全体の5％未満に過ぎない。税金を頑張って払う人をないがしろにするものだ」などと猛反発。夏の参院選に向けて対決姿勢に転じているが、財務省は「玉木ブームもそろそろピークを過ぎ、全国32ある参院選の改選1人区に独自候補を立ててもほとんど勝てないだろう」と突き放して見ている。

それでは財務省は自・公・維連立を望んでいるのかと言えば、そう単純でもない。来年度予算案では維新の協力を得たものの、吉村、前原両共同代表とも求心力を欠く今の体制では、党内が一枚岩になり切れず、仮に連立を組んでも政権安定化にはつながらないと見透かしているためだ。

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前原氏は「鉄オタの“盟友”石破氏が首相を務め、自分も維新の共同代表の今が千載一遇のチャンス」と、連立政権入りに前のめり姿勢のようだが、大阪系議員の間では「部分連合を超えて自民と組めば、本拠地の大阪・関西でも有権者から見放され、党が滅んでしまう」などと拒絶反応を示している。そもそも参院選も振るわなければ、再び代表が交代する事態も予想され、そうなれば共同代表としての前原氏のクビも飛び、連立機運が一気に萎みかねない。

財務省の究極の目標は、不安定な政治状況を逆手に取って、石破政権と野党第一党の🔻立憲民主党との大連立ムードを醸成し、消費税増税につながる「社会保障と税の一体改革2・0」に道筋を付けることだ。税率を1％引き上げれば、年間の税収は約2兆円増える。岸田前政権の少子化対策や今回の高校無償化など財源の手当てのないままに、政治の都合にゴリ押しされたこれまでの歳出拡大分を取り戻し、雪辱を果たすには、これしかないと考えている。

「今は一体改革2・0を仕掛けるのに打ってつけの布陣だ」。財務省次官OBの間では、そう期待も膨らんでいる。

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新川浩嗣次官(1987年同)は厚生労働担当の主計官として、旧民主党の野田佳彦政権時代に当時野党だった自公との一体改革の実現に深く関わった。ナンバー2の宇波弘貴主計局長(1989年同)は野田政権で官房長官秘書官を務め、官邸側から一体改革の実現を後押しした。

次期次官が確実視される主計局長の宇波氏が今、立憲民主代表の野田氏や元財務相で衆院予算委員長を務める安住淳氏らを張り付くように手厚くサポートしているのは、「一体改革2・0」へ向けた布石づくりの狙いからだろう。霞が関では、財務省が今夏の幹部人事で新川次官、宇波主計局長をともに続投させ、参院選後に大連立工作に動くとの見方がもっぱらだ。

ただ、そんな財務省の策略に早くも暗雲が立ち込めている。

まず石破首相が、高額療養費制度の負担上限を巡る朝令暮改や、自民党議員への商品券10万円配布でにわかに世論の批判を浴び、自民党内からは首相交代論が噴き出す事態となっている。

一方、立憲民主党についても参院選の結果が振るわなければ、「明確な対立軸を示せなかった野田代表の退陣論が浮上する可能性がある」(永田町筋)との見方がある。